大大大大好きな小野先生の「過ぎる十七の春」加筆修正版が角川文庫から出ていました。桜も散り始めたこの季節にこの本と出会えてよかった〜!!今日はこちらの感想になります。ネタバレ含みますのでご注意ください!
以下、本作のあらすじです。
運命の春が来る──。従兄弟同士の直樹と隆は、まもなく十七歳の誕生日を迎えようとしていた。毎年同様、隆の住む花の里の家を訪れた直樹と典子兄妹。そこは木蓮や馬酔木や海棠や空木などに埋もれた野草の里。桃源郷のような場所にも関わらず、心優しい隆の目は昏く、なぜか母親の美紀子に対して冷淡な態度をとってしまう。母子に一体何があったのか――。「あの女が、迎えに来る…」毎夜部屋を訪れるなにものかの気配に苛立つ隆。息子の目の中に恐れていた兆しを見つけて絶望する美紀子に異変が。直樹と隆──二人の少年を繋ぐ悲劇の幕が上がる!! (引用元: https://www.kadokawa.co.jp/product/322203001811/)
本作を読んで感じたことについて、以下の4点でまとめたいと思います。
①怨霊の憑かれ、狂っていく描写の怖さについて
②少年期の通過儀礼 (イニシエーション)
③風景描写の美しさ
④猫がかわいい・強い
①怨霊の憑かれ、狂っていく描写の怖さについて
穏やかな隆が狂っていく様子、そして自分も取り憑かれていく様が直樹の一人称視点で描写されていて、本当に怖くて、かつもどかしかった。何となく、他の創作だとこういう展開のときって家族とか覚醒した親友(?) とかが助けてくれたりするもんだけど、小野先生の作品はそういう都合が良い描写がなく絶望感が心地よいです。
②少年期の通過儀礼 (イニシエーション)
これは本書の解説で書評家の朝宮氏によって言及されています。解説で『幸せな子供時代の終わりに直面した少年たちは、亡き者から受け取った思いを胸に、新たな一歩を踏み出していく。』とあります。
家族との関係、自分の生い立ちや家系の秘密。怨霊の悲しい過去。子供から大人になる覚悟と責任が、沸騰したお湯を自分と従兄弟の腕に掛け、呪いを払拭するところに現れていたのではないかと感じました。
③風景描写の美しさ
春の花が咲き乱れる異界のような里山、夜の静けさの中に潜む生き物の影。本を読んでいて花の香りや、土と葉っぱの匂いがしてくるように錯覚します。これぞ小野ワールドって感じ!!
文字で理解できなかった草木は調べながら読むなどして、ちょうど桜の盛りを過ぎた頃だったので出かけがてら「あ、これは海棠かな」とか思いながら散策したりしたのも楽しかったです。
④猫がかわいい・強い
猫好きとしては触れずにいられない、三代が可愛くて強くて頼りになる。この作品のキャラクターの中で一番好き。猫が出てくる作品が好きな人には絶対読んで欲しい〜〜。
まさか、死んじゃったりしないよね…!?って最後までドキドキしながら読みました。本当に良かった…これが屍鬼だったら危なかった。
素敵な作品を読み終わったあとに感じる、こう、胸にぽっかり穴が空いた感じ…をこの本でも味わいました。余韻がすごいけど、感想を文章にすることで何とか正気を保っていられます。
今日は4月5日。桜が散って、地面に落ちた花びらが風で吹き上がるのを見られる時期です。
『里を白く染めていた桜は青葉、いまは卯の花が白い』と言うにはまだ早いかな。その頃にはわたしも一つ年をとっている予定です。子どもの頃から大好きな先生の本を大人になっても読めることに感謝しつつ、新作も楽しみに待ちたいと思います!