読みました。
この本の内容を語る時に、結珠と果遠二人の関係を、既存の言葉を使って表すのは野暮だと思う。
女の友情とか百合とか共犯とか、思いつくものは色々あれど、どれも微妙に言葉足らずで的を得ていないというか……とにかく私はこういう、「名前の存在しない関係性」というのが大好きです。
今回も好きな文章を抜粋↓
「頑なに前を向き、果てのない空と海に視線を投げ出していると、肩に果遠ちゃんの頭が載った。果遠ちゃんは何も言わず、ただぴったりと私に寄り添っていた。潮が引くように涙が私の中に沈んでいくまで。一世紀以上も昔、遠い国から来た人たちを無情に呑み込んだ海は、今、私たちの眼下で穏やかに雲の影を受け止めている。」
「雨が降りそうで降らない、泣き出しそうな空は結珠ちゃんにぴったり、なんて言ったらいやがられるかな。水分を湛えるだけ湛えて吐き出せない雲。最初から何も抱えなければ楽だって、結珠ちゃんも頭では分かっているだろう。」
「水平線とは言うけれど、実際何の境目でもない。水平線にたどり着けばまたそこから水平線が見えるだけ。空と海の交わる場所なんか、どこにもない。」
「傍にいてごはん食べさせて愛情をかけるのは、誰だっていいんだよ。産んだ人間のすることだけが特別で尊いなんて思わない。」
凪良ゆうとか一穂ミチとか、血ではないもので繋がっている人間同士の関係を、よくぞここまでの解像度で文章にできるなぁと思う。
ラストは疾走感あってよかったな。この二人が今後どうなるのか、正直想像もつかないけど、既存の名前がつけられない関係の二人が生きやすい世の中であってほしい。