小町という白猫について 最終回

なかなか心の整理がつかなかったが、ようやくこれを書けるくらいにはメンタルが落ち着いてきた。

七月八日 午後十時四十五分、小町は空へと還っていった。

恐れていたより、ずっとずっと穏やかな最期だった。

ご飯を食べられなくなって約二週間、立っているのがやっとな状態だというのに、小町は最後まで自力でトイレに行って排泄していた。なんて気高い猫だろうと思う。

小さな痙攣は何度かあったものの、数日前にあったような何十秒と続くものはなく、最後は深く息を吐いたあと、静かに心臓が止まっていくのを痩せた背中に添えた手のひらで感じた。

見慣れた部屋に、今は小町がいない。

小町はいないのに、私の腕には小町の体を拭くときに思いっきり噛みつかれた痕がまだ残っている。二週間くらい前につけられたやつで、みみず腫れはまだ赤い。

目を閉じるとまだ小町の気配がする。テーブルから飛び降りる時、肉球が床に触れる音、顔を寄せてきた時の鼻息とエンジンのようなゴロゴロ音、夜中にむくっと立ち上がってカリカリを食べにいく音、鳩の鳴き声みたいな寝息が聞こえる。

最後は食べれなくなってしまったウェットフードも、大好きだったおやつも、藁にもすがる思いで購入した動物病院専用ちゅ〜るも、薬も、おもちゃも、猫ベッドも、トイレも、砂も、もしかしたら明日小町が生まれ変わって帰ってくるかもしれないと思うと、片付けてしまおうという気はなかなかおきなかった。

小町を火葬する際、花を添え、大好きだったおやつを入れて見送った。今ごろ好きなおやつをお腹いっぱい食べてるだろうか。一人で寂しい思いをしてないといいなと思う。

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